Laurel Halo : 時間感覚を狂わすテクノ

シンセ・レイヤーと、その向こう側で奇妙に脈打つビートが織り成す美しきイリュージョンが、クラブからインディーまで多くのリスナーを魅了したのはまだ昨年のこと。Laurel Haloはそのままダンスフロアから隔離した世界で独自のビートを作り上げていくのかと思われていた、が、そうではなかった。彼女は『Quarantine』リリース以降も、ライヴではダンサブル/リズミカルなトラックをプレイし続け、今年5月には彼女の中のUKベースとテクノの要素を抽出したようなEP『Behind The Green Door』をリリースした。そして、この度リリースされた新作『Chance Of Rain』は、揺れるダンスフロアが容易に想像できるポップささえも感じられるクラブアルバム。どうやら彼女曰く「どちらかというとこっちが本来の姿」らしい。しかし、ドローンやチルから冷ややかで硬質なテクノになっても、依然としてヒプノティックで、リスナーを包み込む彼女特有の酩酊感は失われていない。いったい、彼女の生み出すサウンドは今どうなっているのだろうか。その疑問を『Chance Of Rain』のサウンドとプロダクションから紐解いてみた。

 

── 『Chance of Rain』聴かせていただいたんですが、アンビエント・サウンドが印象的だった前作『Quarantine』からのサウンドの大きな変化に驚きました。今年5月にリリースされたEP『Behind The Green Door』の時には既に今作『Chance of Rain』に繋がるテクノ・サウンドにシフトしていたように思いますが、このようなサウンドへと変化するに至った経緯を教えてください。

Laurel Halo(以下、LH) : 今年リリースした2枚の作品(『Behind The Green Door』と『Chance of Rain』)のサウンドは、私のライヴが反映されているの。ここ数年はライヴでリズミカルな音楽をプレイし続けているから、どちらかというと私にとっては、『Quarantine』の方がより新しい試みだったわ。

── 『Quarantine』リリース後から『Chance of Rain』リリースまでの約1年半の間、あなたは世界各地でライヴを精力的に行っていましたね。世界各地でのライヴを経験して、生活や心境などあなた自身には変化はありましたか?

LH : それぞれの場所に対して抱いていた特別な感覚もホームに対する感覚も関係なくなった、という意味ではツアーは私の生活に影響したわね。だけど、来年新しい都市に引っ越すの。わくわくするわ!旅行ができて、自分の音楽を演奏することもできるのは幸せだと思うわ。

── 『Chance of Rain』のレコーディングやミキシングといった制作過程はどういった流れだったんでしょうか?今年5月にリリースしたEP『Behind The Green Door』から変えたことはありましたか?改めて制作の流れを教えてください。

LH : EPもLPも、ライヴでプレイするためのパターンをハードウェアで作ることから始めて、その後に、スタジオと自宅でレコーディングとエディティングを済ませたの。『Chance of Rain』は、春にロンドンのスタジオを借りて、5日間で全部のパートを録音したわ。一方でEP(『Behind The Green Door』)は、昨年の冬にベルリンで、その時に見つけられたいくつかのスタジオで録音したの。スタジオにある素晴らしいコンプレッサーとフィルターでより良い音質にするのは重要なことよ。でも、もちろんどちらのレコードも過度に洗練された「スタジオの」サウンドではないわ。そういうことが言いたいんじゃなくて、私の自宅にある機材ではやれることがかなり制限されちゃうのよ。だから、2つのレコードのサウンドの違いとしては、たぶん私が入ったスタジオにはそれぞれ異なる機材があったっていうことが挙げられるわね。

── 『Chance of Rain』は、前作『Quarantine』には無かったような、ダンスフロアの雰囲気が色濃いという印象を受けました。具体的にどういったことが今作のインスピレーションになったのでしょうか?また、あなたは音楽で踊る(=リズムに合わせて体を動かす)ということを重要なことだと思いますか?

LH : リズムのパワーと、どうやったら不思議な方法で時間の感覚を分解して、引き離せるかっていうことにインスピレーションを得たの。どうしてリズムによって時間の感覚が薄れて消えていくように感じられるのかっていう、その仕掛けの理由と方法について考えるのは楽しいわ。

 

── サウンドは大きく変化しましたが、アルバムやトラックに盛り込まれているダークなエネルギーや雰囲気は、『Quarantine』に引き続き、今作『Chance of Rain』でも健在なように思えます。こういったダークな雰囲気のベースになっているものは何なんでしょうか?

LH : たぶん…それについて話すことはできないわ!

── テクノというジャンルは、デトロイトテクノ、ジャーマンテクノ、UKテクノといったように地域で区切られて語られることがよくありますが、『Chance of Rain』のビートはどこの地域のテクノにも属さない上、折衷性を強く感じました。今作のビートの影響元と、ビートを作る際に意識したことを教えてください。

LH : クラブミュージックからそうでないものまで、たくさんのリズミカルな音楽に影響を受けたわ。今作にはベーシックなテクノの影響があるの。でもその一方で、ハウスもあるわ。デトロイトとUKのね。あと、たぶんミニマルなトラックをジャーマン・テクノのサウンドと結び付けてるんだろうけど、私の耳には全くジャーマン・テクノに聴こえないわ。ブロークンビーツのトラックとコラージュタイプのトラックは、ミュジーク・コンクレートと、一般的に知られてるパーカッションまたはクラブミュージックのパターンをはっきりと使うよりも反復とリフレインからリズムを作る可能性から、よりインスピレーションを受けたの。

── “Serendip”、”Chance of Rain”、”Ainnome”といった長めのトラックを魅力的にしている要素として、トラック中に起伏を生んでいるシンセサウンドやサンプリングも欠かすことができません。どういったものをサンプリングしたのか、また、ビート以外の部分のサウンド・プロダクションで意識したことを教えてください。

LH : いつもとは別のキーボードと楽器を自分で演奏したものをサンプリングしたの。他のサンプリングソースから引用できる調和的な素材がなかったのよ。サウンド・プロダクションでは、ヒプノティックな雰囲気を作ることに気をつけたのと、(リスナーが)楽に作品に入り込めてかつ何度も何度も繰り返し聴けるものを作りたかったの。

── 『Chance of Rain』はあなたのライヴパフォーマンスの拡張、延長として制作されたそうですが、あなたにとっての「アルバム」と「ライヴ」の関係性はどういったものなんでしょうか?

LH : この作品は、基本的には私がライヴでプレイするトラックをエディット、アレンジして具体化したものなの。おそらくトラックはライヴよりも断然生々しいくて、より直接的に聴こえて、インプロヴィゼーション(即興演奏)も際立ってると言って良いわね。録音する時もまだ音楽の流れや方向性、感触を明確にしたかったのよ。だから、ある意味より完成された作品に感じるわ。

── あなたがクラシックピアノを弾いて育ったという影響が伺えるトラック”Dr. Echt”と”-Out”で、テクノ・トラックを挟んだ形になっているアルバムの構成も聴いていて非常に興味深かったです。『Chance of Rain』の構成はどういったことを考えて行ったのか教えてください。

LH : 音楽的に、筋の通った物語的な流れのある作品をにしたかったの。

── 『Chance of Rain』には、古代の歴史、神話、物語にまつわる言葉をタイトルにしたトラックが幾つかありますが、これには何か意図があるんでしょうか?また、”Ainnome”とはどういう意味の言葉なんですか?

LH : 私はダンスミュージックの歴史以前に、わくわくする歴史がたくさんあると思うの!「Ainnome」はCAPTCHA(※)で発見した言葉なのよ。
(※ Completely Automated Public Turing test to tell Computers and Humans Apartの略。ロボットによる自動入力を防ぐために、応答者が人間であることを証明するテスト。歪んだ文字・数字の画像を表示して、何が書かれているかを入力させる方式のものが有名。)

── 『Chance of Rain』のアートワークは、ヴィジュアル・アーティストでもあるあなたのお父さんが描いた作品だそうですね。私はこのアートワークを見た時に「埋葬」や「墓場」を連想したのですが、そもそも、この作品はどういう作品なんでしょうか? あなたが知っている範囲で教えてください。また、このアルバムのアートワークとして使用した理由を教えてください。

LH : あなたがこのアートワークを初めて見た時に、墓の中から上がってくる男たちだけを見てダークな絵だと考えたのかもしれないけど、私はたくさんのユーモアも込められている絵だと思うわ。このアートワークはこのアルバムのサウンドに似ていて、荒涼で複雑なの。

── 前作『Quarantine』のアートワークは会田誠の作品でしたし、あなたのお父さんはヴィジュアルアーティストですよね。 ヴィジュアルアートが音楽制作のインスピレーションになることはありますか?

LH : ヴィジュアルアートは私の音楽制作に影響してるけど、私はほとんど音楽的な人間なの。

── では、最近気に入っているアーティストを教えてください。

LH : 今は、最近のアーティストだとFIS、Beneath、Kelela、DJ Rashad。古いアーティストだとFrancis Bebay、Lennie Hibbert、Vivenzaを楽しんで聴いてるわ。

── 最後に、あなたの今後の方向性を教えて下さい。『Quarantine』はシンセとヴォーカルを際立たせたアンビエント、『Chance of Rain』は硬質でコールドな感触のテクノでした。あなたは流動的に変化していくことが好きなようですが、今後はどういう音楽を作っていきたいですか?

LH : 今後は、よりディープでより良い音楽を作りたいわ。

[Credit]
Text & Interview: Hiromi Matsubara
Posted this interview at Advantage Web.

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